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南方熊楠と牧野富太郎 その1 [読書]

 南方熊楠みなかたくまぐす18671941)の生きた時代は明治・大正・昭和に渡る新世紀への「梯」(かけはし)を示す日本の台頭の時であった。彼は博識であり、行動は奇想天外で,人が思いつかない発想をした。18ヶ国語を理解する語学力を有していたと思われる。また,彼の記憶力は並外れていて,日記に記したことを何十年も憶えていて,いつ,どんなことを誰が言ったと,言った本人が忘れていることを述べている。

 今まで,学者はある分野だけに優れているが広い分野に跨って業績を残すことは少なかった。それに対して彼の研究分野は広く,博物学・生物学・天文学などの自然科学分野,考古学・民俗学・宗教学の人文科学分野に及んでいた。

この時期に,日本の植物学において,著名な研究者が活躍していた。それは牧野富太郎18621957である。牧野は,今も発行されている牧野日本植物図鑑に象徴されるように,日本の植物分類学の象徴とも言える学者であった。

多くの名のある学者はほとんど大学教授の経験を持っている。当時の大学は,まだ東京帝国大学(今の東大)ができたところで,所謂国立大学は一つだけの時代であった。南方は大学予備門(東京帝国大学の前身)中に代数学の単位が取れないため,ドロップアウトしている。これはまともに出来ないのではなく,自分の興味を持たないモノには徹底的に時間を割かないことの表わしている。牧野に至っては,小学校の教えることがつまらないとして,中退している。その二人が研究者として,学問に新風を送り込んだのだから,学問の分野でのドリームを身近に感じる不思議さがある。

彼らに関する詳しい記録は,伝記や資料として遺されているが,南方と牧野との関係は直接会ったことがないのにお互いの評価は辛辣であった。しかし,別の見方をすると,彼らの性格や考え方の違いが浮き彫りにされ,特異な人格が見えてくる。

では,南方と牧野の類似した境遇とは,酒造業の生まれ,7歳ごろに「本草綱目」に接しているなど似た所がある。

自然界には「似た者同士が集まる」ことがよく見かけられる。水とアルコールは構造が似ているからどんな割合でも溶け合うが,水と油は溶け合わず,精々,分散して白濁するに過ぎない,バクテリアはシャーレ培養の中で似たモノ同士が集まってコロニーを作る。宇宙では粒子同士が万有引力によってお互いに近寄る。ところが,人間は違う所がある時に表れてくるから不思議である。

このあと,熾烈な記事や書簡がある。「その2」へ続く。

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